「ねぇ…もう止めない?」
「もうあれから半年だしさ、限界だと思うんだけど」
「今更帰るのが体裁悪いってのは分かるけどさ。学校の宿題と同じ、後回しにしてたら後が怖いと思うよ?」
「ルリだって馬鹿じゃないもの。次にナデシコと遭遇したら終わりだと断言できるよ」
「私御免だからね。アキトとルリの喧嘩に巻き込まれてランダムジャンプとか、マジ勘弁」


 戦艦ユーチャリスのブリッジで、アキトはパートナーのラピス・ラズリと「反省会」を開いていた。
 何に関しての反省会かといえば、30分程前まで行われていた「追いかけっこ」についてである。
 長らく事故死と見せかけて裏でコッソリ復讐に身を投じていた事がバレて、それでも元居た場所へ帰ろうとしないテンカワ・アキトに堪忍袋の緒が切れた義妹のホシノ・ルリが、自身が艦長を務める戦艦ナデシコBで強制的に連れ帰ろうとして来たのだ。
 今までに合計5回の襲撃を受け、その全てを振り切ってきたアキトのユーチャリスだったが、その追いかけっこに付き合う羽目になったユーチャリスオペレーター、ラピス・ラズリの体力、気力、忍耐力は限界に達していた。
 先程から彼女がアキトに一方的に喋っているのはそのためだ。


「で、でもなぁラピス。さっきのルリちゃんの顔見ただろう?ありゃヤバイって。あの能面みたいな表情。普段の無表情なんて比じゃないあの顔は、この上なく怒っている証拠だ」

「うん。あれはヤバイ。劇場版本編の私なんてあれに比べればアキトの奥さん並に表情豊かだね。だからだよ、私も怖いんだって。正直言って。しかも彼女って私に敵意バリバリなんだもん。そりゃ彼女にしてみれば、私のポジションは涎をナイアガラの滝みたいにダラダラ流すくらい羨ましいだろうし、私も手放す気は無いけど。だからと言って真正面からあの夜叉とやり合うのはホント限界だってば」

 溜息をつくラピス。向かい合っている二人の目には、げっそりとやつれている顔がそれぞれ映っているだろう。それは「追いかけっこ」の凄まじさを物語っていた。

「でもほとぼり冷めるまで帰ってくるなってアカツキに言われてるからユーチャリスを降りてトンズラこくのも無理だし」

「いっそナデシコを航行不能なくらいに痛めつけられれば逃げるのも楽なんだけど」

「無理無理。リョーコちゃん達相手に俺だけで太刀打ちできるわけ無いじゃん」

「せっかく直したブラックサレナも速攻で装甲壊されて中の人だけになっちゃったもんねぇ」

「中の人言うなぁ」

 上半身を横に倒すアキト。完全に脱力状態。
 ラピスもまた、目の前のコンソールにうつ伏す。



 疲れにより、だんだんと眠くなっていく二人。
 ゆっくりと、時間は過ぎていく。



「……ねぇ アキトぉ」

「……んー」

「……奥さん、元気かなぁ」

「ふぁ……大丈夫さ。いたって健康らしい。心も体もな」

「……よかったねぇ。ホント」

「……ああ」



「……ねぇ、アキトぉ」

「……んー」

「……私、アキトの家族に会ってみたいな。ルリは怖いけど」

「……そっか。そうだな…そろそろ、帰っても良いかもな…」






大分昔に某避難所の某スレに投下したものを修正したものです。
劇場版がこんな感じにTV版みたいなノリになったら彼らは幸せになれるのかなぁっと思ったり。